2009年10月20日火曜日

Uのおもひで ~act.1~

=明日役に立たない無駄知識=


「クモってコーヒーを飲むとでたらめな巣を作るらしいよ。」
「へー。……で?」
「うん?」
「そんなこと考えてたんじゃないでしょ学。」


無理矢理に合わせられる視線。
あんた目が笑ってないから、代わりにオレが笑っとこうか。
それで引き下がってくれるとも思わないけど。
遠くを向けば同じものを見ようとし、
俯きがちになればもっと低い姿勢になって落とすもの全部を拾おうとする。
ベンチに隣り合って長いこと、あんたはオレとここにいる。


夕暮れ時の公園に来るのは小さい子供じゃなく、わざわざはぐれたい捻くれ者。
こんな時に限ってどうして、一番見つけてほしくない人が探しに来るんだ。




「悩み事?」
「…ってほどでもない。ホント、大丈夫だから。」
「うん…まぁ言いたくないなら無理に聞こうとは思わないけど。
でも学ってなんでも一人で考えようとする上にあんま嬉しくない結論に達するからなあ。」
「なにそれ。」
「なんかこう…極端だったり、言ってくれよ!みたいなことだったりさ。」
「ハハハ。」



悩んでるんじゃない、
ただ時々あんたに対する感情を持て余したりどうにでもなれと思ったり。
つまりはそういうことですよ。
言ってくれよとか言っていいよとか、もし知った上でもそう言ってくれる?
まぁ、くれるだろうねオレのために。
だけどこっちが無理なんだ。自分でもなんでか分かんないけど解放できない。
どんどん大きく膨らんでいくのに任せていくしかない。


ああなんて独りよがりで身勝手な恋心。




逢う魔が時
暮れていく太陽とともに、いっそ消えてしまえたら。




「…林さん、良い人だよね。」
「なにいきなり。」
「こんな捻くれたワケわかんねぇヤツのこと気にかけてくれて。」
「いやいや、学だっていいやつじゃん。優しいし。」
「そんなことないよ。」

不毛な褒めあい。恥ずかしげに苦笑いしながら。
いやホント、どっちのことだよ、って話。

『いいやつ』も『優しい』も友達として。
心配したり付き合ってくれたり励ましたり慰めたり、見つめたり、声を掛けてくれたり。
不満じゃないけれどもやもやしてる。
今この場で寄掛ったって、その真意はきっと永遠に届かないままだろう。



ここから見る夕陽は綺麗だね。
また一つ、消すことのできない、オレにとってだけ大切なものが増えた。



今更なこと一つ一つ数えてヘコんで沈んでも
それでもあんたが好きなんです。
良い人はオレじゃなくてあんたです、
そしてその裏表のない笑顔とか気遣いとか言葉とか仕草に
自惚れや期待をかける間もないほどの速さと軽やかさで、
あんたは簡単にオレを浮上させオレの中に居座って領域を広げてしまうんです。


「林」
「ん?」
「あのさ、」



今日も明日もあさってもきっとオレはあんたが好きで
そのうちこの理由の分からない抑止力を振り切って伝える日がくるかもしれない。
けれどそれは今日でも明日でもあさってでもあるようでない、
悟りの域にまで達した清浄心か瞬間破壊のような衝動を伴う『いつか』。



「…渋谷には昔ロープウェーが走ってたんだって。」
「…へー。」





それまではただあんたを想う日々。

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